その夜、色付き眼鏡をかけ、ライダースの革ジャンを着た男性が、口元に、二本の指をつけて、、
「ここ、煙草…オッケー?」
「はい、大丈夫です!」
ウォレットチェーン を〝ジャラジャラ〟音を立てながら、女性と御来店頂いた。
メニューは置かれたまま…、、
「マティーニ…いける?」
「あっ、はい…御用意出来ます。」
「じゃぁー、、ゴードンをダブル、ベルモットは、シングル…シェイクして、オンザロックスタイル…レモンピールは、ツイストしてグラスに落として、オリーブは別でくれる。」
「……かしこまりました。」
映画〝007〟ジェームズボンドに、感銘を受けた人生の先輩から御注文頂く事が多い。
雑談から、代々木上原でディナー後に、一服、出来るところを探していたら当店を見つけてくれた。
世田谷に住む御夫婦、三人の娘さんは手を離れ、土曜日の夜は、妻と外食に出かけるのが、恒例になっているという。
「いいすねぇー。」
「いゃいゃ…、、ラフロイグをトリプルロック。」
「マスター、俺の仕事何だと思う?」
「えっ?うーーーん……、、、」
全身をさり気なく拝見し、答えを探していると…、、
「医者だよ。」
「えーーーー、マジっすか?」
中略
先生の持論は、こうだ…、、還暦を越えてから、健康診断を受けていない。
〝この年になったら…全てを受け入れて生活をする〟
〝二、三週間もビクビクしながら診断結果を待つのが嫌だ〟
〝悪い数値が出て、それを気にしながら生きていく事の方が体に悪い〟
俺は、医者だから、患者さんには、年一度の健康診断をすすめている。
「これは、、、仕事だからね。」
下を向き、煙草に火をつける。
何かと、影響を受けやすい私は、この三年間、一切の健康診断を受けていない。
でもねぇ〜…今年は、受ける事にしました。
この〝ぶれぶれ感〟が、俺流なのかもしれません。