その夜もラストオーダー、表に出て四つん這いになり必死に看板のスイッチを探していると、
「あっ!終わりですか?」
後方から声が聞こえ振り返ると一組のカップルが立っていた、時短営業の閉店三十分前。
「いえ、ハイ…一杯ぐらいなら大丈夫ですよ。」
二人は顔を見合わせてうなずきカウンター席に御案内させて頂いた。
女性の頬は、ほんのり赤く二軒目と推測出来た。オーダーはマッカラン12年のロックとアメリカンレモネード。お酒を提供するまで二人の会話が途切れる事はなかった。会話から大まかな関係性は汲み取る事が出来るのですが…、、恋人同士か?いゃ…職場の先輩と後輩か?いゃ……取引先の関係か?
「あの時さぁ…」
「あの頃ってさぁ…」
久々の再会を楽しんでいるのが伝わった。女性はお酒が進まないまま男性の話に咽せ笑いして、水を呑みながら軽く胸元を叩く、男性は私に、
「……もう一杯頼んでもいいですか?」
「どうぞ。」
男性は女性のグラスを指差して〝私はいらない〟と首を横に振る。
二杯目のウィスキーを飲み終わる頃、彼から突然のプロポーズ。
(中略)
彼女は両手を顔に当てて泣きだしてしまった。彼は今夜プロポーズしよう決めていた事を一から説明し始めた。
私の出来る事はもう少し営業時間を伸ばして語り合ってもらうしかない、彼女は水を飲み干して落ち着きを取り戻しお絞りをたたみ直した。彼がお手洗いに立たれた時にお声掛けをさせてもらった。
「いゃーーおめでとうございます!」
「ありがとうございます!…嬉しいです…昔、彼に告白したら振られたんです。」と微笑む。〝この娘は、えーーー娘だわーー〟
彼はお手洗いから戻り笑顔でお会計のサイン。
「ご馳走さまでした!」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
静まりかえった代々木上原の住宅街、お二人を外までお見送りする。まだまだ話し足りない二人は、一度も振り返る事もなく十字路を左に曲がった。〝よかったよかった〟カウンターに残された二客のグラスを下げながらニヤける。彼女がポツリと言った独り言が忘れられない。
「…今夜は幸せ過ぎて寝れないかも。」