ある夜の出来事 スローなブキにしてくれ

今晩は、店主の石原で御座います。

その夜、てっぺんを過ぎた頃、〝チリーン〟とベルが鳴り入口に目を向ける……。

〝今夜もお邪魔します……〟と、恐縮そうな顔をして、お初から三夜連続の御来店となる爽やか好青年、バックバーを見渡し……、

「……知多ハーボールをお願いします。」

着席するなり、今夜もスマホを取り出し、LINEアプリを開き、ふきだしに、サクサクと文章を書き込んでいく、、この数年、店内でもよく見かける光景、、、私は、ひまちん大王だ。

    約一時間の滞在、ため息交じりに、人差し指を重ねてお会計のサイン。

「ハイ、毎度ありがとうございます。」

「……いゃー、マスター…この街も、この店も、最後になりますよー 」

「あらま?」

「……明日、僕だけ引っ越しするんです!」どこまでも爽やかだ…。

   と、初めて会話らしい会話となった。最後だからと身の上話を語り始め、名刺も頂いた、、超一流企業の三十代前半、既婚、子供なしのスーパーダブルインカム…。約二年の代々木上原 での新婚生活であったが、妻とは、離婚協議が進行中……。普段の生活でバーで呑む習慣は、全くなかったが、急接近の新恋人と連絡を取り合う為に、連日連夜、御来店頂いたというわけだ。

「なるほどねぇ………。」

出口までのお見送り、軽く握手をして……

「お元気で!」

見送る後ろ姿は、時折、立ち止まり、会話を更新中、、。

(お気をつけてぇー…、)

 

〝LINE〟未登録の私からすればだ、

〝気持ちの込もった一通のメールで、ええやん…〟

〝声、聞けるし、電話でええやん……〟

〝10分で、ええから逢おうよー〟とは、ならんのかいな…。

 

マスター、、……時代は、〝5G〟ですよ……。

「?」

 

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