ある夜の出来事 踊る阿呆に見る阿呆

今晩は、店主の石原で御座います。

 金曜日の営業が不発に終わった夜は、そそくさと片付けて、タクシーを止めて、

 「六本木までお願いします。」

  アマンド前で、タクシーを降り芋洗坂を下りきったところにある…〝クラブカスティージョ〟(現在は、閉店)入口には、プロテクターを着用し、警棒を持った大男(店長)に、

「トムの知り合いです!」

うなずきながら、重い扉を開けてくれる。

  この店は、誰かの知り合いでなければ入店出来ないシステム、店内に入れば別世界。〝ガンガン〟のダンスビート、、。先が、見えないぐらい人だらけ、外国人も結構いる…お客さんの肩や背中を軽く叩きながら、奥のカウンターに向かう。揉みくちゃになりながらバーカウンターに到着、忙しそうなトムを発見する。

 

ここで、毎回、毎回、気付く…大音量の店内…お互いの〝耳を舐めてるのか?〟の勢いで、大声で語り合う。

「おーー!ひさやーー!みせ!おわりーーー?」

「はーーい!あーそーびーーにーー!きーーまーーした!」

「おつかれーーーー!」

「えっ!?」

「おーーーつーーーかーーーれーーーー!」

全く、会話にならない。

苦笑いして、ハイネケンを片手に、プロジェクターに映された海外サッカー中継を眺めるだけ、、行った事ないけど、メキシコのナイトクラブに来ている様な錯覚になる。

 

  始発が動き出し、一気にお客さんが引けて、音量も下がり閉店となる。

トムも落ち着いたところで、煙草に火をつけて近況を語り合う。

  〝そーーねぇー、多かれ少なかれ、色々あるのが人生ですよ。〟

 

 退店となり、土曜日の朝、、朝日が眩しい…ゾロゾロ、ゾンビのように駅に向かう人々、カラスも〝カーーーカーーー〟生ゴミを漁っている。無意識のうちに吸い寄せられる…〝名代富士そば六本木店〟かき揚げ蕎麦を頂く…飲み過ぎもあり、気管に入りむせまくる…。〝ごほっごほっ〟鼻から蕎麦が、出てくるかと思うぐらいだ、お汁も完飲み、五臓六腑に染み渡る…。通勤の人々と、逆行して〝乃木坂駅〟まで歩く、、電車に乗り込み、腕を組み…端っこに座る。…トム、忙しそうだったなぁ…一晩で、カクテル何杯作ってんだう?うーん、………帰って寝よ!

  それでは、今夜も貴方様の御来店、心よりお待ち申し上げております。

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